AI開発は内製か外注か|判断基準・体制別のコスト・内製化の進め方

AIを外注で作ったものの、モデルが変わるたびにベンダーに改修を頼んでいる。社内で作りたいが、任せられる人がいない。AI開発の内製化を検討する経営者やDX担当者から、こうした相談が増えています。
システム開発一般の内製と外注の比較(メリット・デメリット、契約形態、外注先の選び方)はシステム開発の外注と内製の比較記事で解説しています。本記事はAI開発に固有の論点、つまりモデルの入れ替わり、プロンプトの保守、データの扱い、評価の継続、人材の5つに絞って比べます。
この記事では、内製か外注かを決める5つの問い、内製・外注・併用の体制別に年間総費用を出す計算式、外注しながら内製化を進める5ステップを解説します。自社の数字を当てはめながら読み進めてください。
AI開発の内製と外注は、初回の開発費ではなく「2年目以降に誰が直すか」で決めるのが基本です!
まず、内製・外注・併用の3つの体制の違いを一覧で示します。
体制 | 向いている場合 | 初年度にかかる主な費用 | 2年目以降に残る費用・注意点 |
|---|---|---|---|
内製 | 対象業務が頻繁に変わる/社内データを扱う/担当者を1人以上割ける | 担当者の人件費(稼働分)+学習時間+API利用料 | 人件費・API利用料は続く。担当者の退職・異動で止まる |
外注 | 要件が固まっている/期限が近い/社内にエンジニアがいない | 開発費+保守費+API利用料 | 保守費・改修費は続く。モデルの差し替え・再評価のたびに費用と時間がかかる |
併用(外注しながら引き継ぐ) | 最初は自社で作れないが、運用と改修は自社で回したい | 開発費+伴走支援費+担当者の人件費(稼働分)+API利用料 | 2年目以降は内製と同じ。引き継ぎ範囲を契約に書かないと外注に戻る |
この表の費用項目は本記事独自の整理で、金額の目安は後半の計算例で示します。いずれも確定見積もりではなく、体制別のAI開発費用をまとめた公的な統計も見当たらないため、検討の出発点としてお使いください。
本記事の概算には、ツール利用料・サーバー費・消費税を含みません。API利用料は計算例で仮定の数字として扱います。対象業務の数や契約期間によって金額は変わります。
AI開発の内製と外注は何が違うのか|システム開発と異なる5つの論点
AI開発の内製と外注は、一般的なシステム開発と同じ基準では決められません。作って終わりではなく、作った後に動き続けるための条件が違うためです。ここでは、判断に影響する5つの論点を順に確認します。

論点1. モデルとAPIは数か月単位で入れ替わる
AIの仕組みは、ベンダーが提供する言語モデルをAPI経由で呼び出して動いています。そのモデル自体が定期的に廃止され、新しいものに置き換わります。
Anthropicの2026年10月時点の公式ドキュメント(Model deprecations)では、公開済みモデルは廃止の60日以上前に通知し、廃止日を過ぎたモデルへのリクエストは失敗する、と明記されています。
実際に、Claude Opus 4.1は2026年6月5日に廃止が告知され、2026年8月5日に廃止されました。告知から廃止までは2か月で、ドキュメントは廃止日より十分前に新しいモデルでテストするよう求めています。
出典・参考:Anthropic「Model deprecations」(Claude Developer Platform公式ドキュメント、2026年10月閲覧) Model deprecations
OpenAIも同様です。2026年10月時点の公式ドキュメント(Deprecations)では、一般提供モデルは廃止の6か月以上前、専門用途のモデルは3か月以上前に通知するとし、プレビュー版のモデルは2週間前の通知になり得るとしています。
出典・参考:OpenAI「Deprecations」(公式APIドキュメント、2026年10月閲覧) Deprecations
ベンダーが違っても、モデルが定期的に入れ替わる点は共通です。廃止の通知を受け取り、2か月から6か月の間に新しいモデルへ差し替えて再テストする人を、内製・外注のどちらで確保するかが最初の論点になります。

論点2. 完成後も「プロンプトと設定」の保守が続く
従来のシステムの保守は、バグの修正や機能追加が中心でした。AIの仕組みでは、これに加えて指示文(プロンプト)、参照させるデータ、判定のしきい値を業務の変化に合わせて調整する作業が日常的に発生します。
AIに業務を実行させるための指示文です。業務の手順、判断の基準、出力の形式を文章で記述します。プログラムのように厳密な文法はなく、業務ルールが変われば書き直す必要があります。
外注の場合、こうした小さな調整も一つひとつ依頼になります。内製の場合は、業務を知る担当者がその場で直せます。プロンプトの保守を誰が担うかは、開発費の多寡より運用の負担を左右します。
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論点3. データの扱いは内製でも外注でも発注側の責任
AIに社内データや顧客情報を扱わせる場合、どのデータをどの範囲で使うかを決めるのは発注側の企業です。開発を外注しても、この責任は移りません。
個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、個人データを生成AIサービスに入力する場合、そのサービスを提供する事業者が個人データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう求めています。あわせて、入力が利用目的を達成するために必要な範囲内であることの確認も求めています。
出典・参考:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日) 注意喚起の掲載ページ/別添(PDF)
社内データを扱うAIほど、データの選別と利用範囲の判断を自社で続ける必要があり、開発は外注しても運用と評価は社内に残す判断が出てきます。
論点4. 精度は固定されない|評価を続ける体制がいる
従来のシステムは、検収時に正しく動けば同じ結果を返し続けます。AIの仕組みは、モデルを差し替えた時点で出力が変わるため、検収時の精度がそのまま続く保証はありません。
そのため、同じ評価データで精度を再測定する作業が、モデルの差し替えやプロンプトの変更のたびに必要です。評価データと精度目標を最初に決めておかないと、「前より悪くなった気がする」以上の判断ができません。
精度目標、検収条件、評価データの作り方はAIプロジェクトの要件定義の記事で解説しています。内製でも外注でも、最初にこの要件メモを作りましょう。
論点5. 人材は不足している|採用する場合の賃金の目安
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2026年7月に公表した「DX動向2026」によると、AI導入・運用上の課題として「専門人材が不足している」と回答した企業は50.1%で最も高い割合でした。
同じ調査で、DXに取り組む企業のうち、DXを推進する人材の「量」が「やや不足している」「大幅に不足している」と回答した割合の合計は、2025年度で85.5%です。「大幅に不足している」は50.1%で、2023年度の62.1%、2024年度の58.5%と比べるとやや解消傾向にあるものの、依然として高い水準にあります。
量の不足は、従業員301人以上の企業で9割を超え、100人以下の企業でも6割を超えています。
出典・参考:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026」(2026年7月) DX動向2026(報告書ページ)/報告書(PDF)
採用する場合の賃金の目安として、厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」を参照します。一般労働者の所定内給与は男女計で月340.6千円、産業別では情報通信業が月406.0千円でした。情報通信業の平均年齢は40.2歳、勤続年数は12.3年です。
この数値は、AI人材の職種別の賃金ではなく、情報通信業全体の産業平均です。また、所定内給与は賞与や法定福利費、採用費を含みません。会社が負担する人件費は、これより大きくなります。
出典・参考:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(2026年3月24日公表、賃金は令和7年6月分の所定内給与額) 結果の概況(掲載ページ)/産業別にみた賃金(PDF)
AI開発は、「作る」工程より「作った後に直し続ける」工程の比重が大きい開発です。この5つを判断基準に組み込みましょう。
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内製か外注かの判断基準|5つの問いで決める
5つの論点を踏まえると、内製か外注かは次の5つの問いで判断できます。すべてに答えると、内製・外注・併用のどれに近いかが見えてきます。

問い1. 対象業務は半年以内に変わるか
AIに任せる業務の手順や判断基準が、半年以内に変わる見込みがあるかを確認します。商品や料金体系の改定、取引先ごとの例外対応の追加などが該当します。
変わる見込みがあるなら、プロンプトや参照データの調整が頻繁に発生するため、内製寄りです。1年以上変わらない定型業務であれば、外注で作って保守契約で維持する形でも運用できます。
判断に迷う場合は、過去1年でその業務のルールが何回変わったかを数えましょう。回数がそのまま改修の回数の目安になります。
問い2. 社内データ・個人情報を扱うか
顧客情報、取引データ、社内文書など、外部に出したくないデータをAIに扱わせるかを確認します。扱う場合、論点3で確認したとおり、データの利用範囲の判断と確認は発注側の責任です。
この場合、開発を外注するとしても、少なくとも運用と評価は社内に残す体制を検討しましょう。
経済産業省が2025年2月に公表した「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」は、提供するデータの利用範囲や、サービスの水準、AI生成物の利用条件といった契約上の条件について十分に検討するよう求めています。外注する場合は、この観点を契約に反映しましょう。
出典・参考:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(2025年2月18日) 公表ページ
問い3. 担当者を1人、稼働の2〜3割で割けるか
内製にも併用にも、社内の担当者が必要です。専任でなくても、1人以上の担当者が稼働の2〜3割を継続して使える状態が条件です。この割合は本記事の目安で、対象業務の数によって変わります。
担当者を決める前に、「誰を、何ができる人に育てるか」と、そのために必要なスキルを言葉にしておく必要があります。IPAの「DX動向2026」によると、DXに取り組む企業のうち、人材の「質」が「大幅に不足している」と回答した割合は、必要なスキルを把握している企業では40.6%、把握できていない企業では64.0%と大きな差がありました。
出典・参考:IPA「DX動向2026」第4章(2026年7月) 報告書(PDF)
誰を育てるかの物差しには、後述する「デジタルスキル標準」の人材類型が使えます。
担当者を割けないなら、内製も併用も成り立ちません。その場合は外注を選び、保守契約で維持する前提で要件を固めましょう。
問い4. 期限と初回の品質はどこまで必要か
いつまでに、どの程度の品質で動いている必要があるかを確認します。期限が3か月以内で、初回から本番業務に使える品質が求められるなら、経験のある開発会社に外注する方が確実です。
内製は担当者が学びながら作るため、初回の完成までに時間がかかります。
外注を選ぶ場合の開発会社の見極め方はAI開発会社の選び方の記事にまとめています。
問い5. 2年目以降、誰が直すか
最後の問いが最も重要です。初回の開発が終わった後、モデルの差し替え、プロンプトの調整、精度の再評価を誰が担うかを決めます。
ここが決まっていないと、外注で作った仕組みは最初のモデル廃止で止まり、内製で作った仕組みは担当者の異動で止まります。
5つの問いと3つの体制の相性を表にまとめます。○は向いている、△は条件付き、×は向いていないことを示します。

問い | 内製 | 外注 | 併用 |
|---|---|---|---|
1. 業務が半年以内に変わる | ○ | △(改修費が重なる) | ○ |
2. 社内データ・個人情報を扱う | ○ | △(運用と評価は社内に残す) | ○ |
3. 担当者を稼働2〜3割で割ける | ○(必須) | ○(不要でも可) | ○(必須) |
4. 期限が3か月以内・初回から本番品質 | × | ○ | △(初回は外注が担う) |
5. 2年目以降は社内で直したい | ○ | × | ○ |
問い3で担当者を割けるなら、問い4の期限を外注で乗り切り、2年目以降を社内で直す併用が候補になります。担当者を割けないなら外注、期限に余裕があり担当者もいるなら内製です。
なお、そもそも何に使うか決まっていない段階なら、内製か外注かを決める前に対象業務を絞る必要があります。AI顧問の費用相場と限界の記事では、顧問に相談して対象を絞り、実装へつなぐ流れを解説しています。
体制別のコスト比較|内製・外注・併用の年間総費用【概算】
次に、3つの体制で年間の総費用がどう変わるかを整理します。体制別のAI開発費用を示した公的な統計はないため、ここで示す数字はすべて本記事独自の概算です。
費用の内訳は体制ごとに違う
体制 | 初年度の費用項目 | 2年目以降の費用項目 |
|---|---|---|
内製 | 担当者の人件費×稼働割合+学習時間の人件費+API利用料 | 担当者の人件費×稼働割合+API利用料 |
外注 | 開発費+保守費+API利用料 | 保守費+改修費+API利用料 |
併用 | 開発費+伴走支援費+担当者の人件費×稼働割合+API利用料 | 担当者の人件費×稼働割合+API利用料(内製と同じ) |
外注の開発費の目安はAIエージェント開発の費用相場の記事で、伴走支援の費用の目安はAI導入支援会社の選び方の記事で解説しています。本記事では、それらの概算の範囲で仮の数字を置きます。
見積もりに入らない費用
体制を比べるとき、見積書に載らない費用を見落とすと判断を誤ります。AI開発で特に見落とされやすいのは次の4つです。

- モデル差し替え時の再テストと再評価の工数
- 業務ルールの変更に伴うプロンプト調整の工数
- AIに参照させるデータの整備と更新の工数
- 担当者の退職・異動時の引き継ぎ(内製・併用の場合)
データ整備は、多くの企業で手つかずです。IPAの「DX動向2026」によると、AIの学習に使うデータを「整備しておりAIに活用している」と回答した企業は7.0%でした。外注の見積もりにデータ整備が含まれていない場合、その工数は自社で持つことになります。
出典・参考:IPA「DX動向2026」第3章(2026年7月) DX動向2026(報告書ページ)
外注の見積もりを取るときは、モデル差し替えと再評価が保守の範囲に含まれるかを確認しましょう。
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その業務、AIで自動化できるか無料で診断します
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「この作業は自動化できる?」の一問からご相談ください。
年間総費用の計算例|担当者1人・稼働30%の場合
小規模な業務自動化を1本作る場合を想定し、3つの体制の年間総費用を計算します。すべての数字は仮定で、自社の数字に置き換えられるように式を示します。

担当者の会社負担人件費は月60万円(仮定)とします。前述の情報通信業の所定内給与 月406.0千円に、賞与・法定福利費などを上乗せして約1.5倍とした本記事の仮定です。
担当者の稼働割合は30%(仮定)、初年度の学習時間は100時間(仮定)、API利用料は月3万円(仮定)とします。
外注の初期開発費は300万円(仮定)、月額保守費は10万円(仮定)です。併用では、開発範囲を絞るため開発費を200万円(仮定)、伴走支援費を月30万円×4か月(仮定)とし、担当者は5か月目から8か月分の稼働を見込みます。
内製の初年度は、次の式で約290万円です。
- 人件費:60万円×30%×12か月=216万円
- 学習時間:100時間×3,750円(60万円÷160時間の時給換算)=37.5万円
- API利用料:3万円×12か月=36万円
- 合計:216万円+37.5万円+36万円=289.5万円(2年目以降は学習時間を除き252万円)
外注の初年度は、開発費300万円+保守費10万円×12か月=120万円+API利用料36万円で456万円です。2年目以降は保守費とAPI利用料で156万円に、改修費が加わります。
併用の初年度は、開発費200万円+伴走支援費30万円×4か月=120万円+人件費60万円×30%×8か月=144万円+API利用料36万円で500万円です。2年目以降は内製と同じ252万円です。
3年間の合計で並べ直すと、次のようになります。
体制 | 初年度 | 2年目以降(年額) | 3年合計 |
|---|---|---|---|
内製 | 約290万円 | 約252万円 | 約794万円 |
外注 | 約456万円 | 約156万円+改修費 | 約768万円+改修費 |
併用 | 約500万円 | 約252万円 | 約1,004万円 |
この計算は本記事独自の概算で、確定見積もりではありません。人件費、開発費、保守費、伴走支援費、API利用料はすべて仮定の数字です。ツール利用料・サーバー費・消費税は含みません。
読み方のポイントは、外注の「改修費」です。改修費がゼロなら3年合計は外注が最も安くなりますが、モデルの差し替えや業務の変更で改修が年に数回発生すると、内製や併用との差は縮まり、逆転します。問い1で数えた「ルールが変わった回数」を改修費に置き換えて、自社の数字で計算し直してください。
併用は初年度が最も高くなりますが、2年目以降は内製と同じ費用で、社内に直せる人が残ります。初年度の差額を「人を育てる費用」と見るかどうかで判断が分かれます。
人材開発支援助成金で学習費用を下げる
内製・併用の学習費用には、厚生労働省の「人材開発支援助成金」が使える場合があります。事業展開等リスキリング支援コースでは、10時間以上のOFF-JTで、企業内のデジタル・DX化に関連する業務に必要な知識・技能を習得させる訓練が対象です。
助成率は、制度上の「中小企業」区分で経費助成75%・賃金助成1人1時間あたり1,000円、「大企業」区分で経費助成60%・賃金助成500円です。経費助成の限度額は、10時間以上100時間未満の訓練で1人30万円です。制度の要件と最新の内容は、厚生労働省の公式ページで確認しましょう。
出典・参考:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」(リーフレット2026年4月8日版) 制度ページ/リーフレット(PDF)
助成金を使った場合の計算例と、研修の選び方はAI導入支援会社の選び方の記事にまとめています。
AI内製化が止まる5つのパターンと原因
内製化を決めても、途中で止まる企業は少なくありません。公的な調査から見える、止まりやすい5つのパターンと原因を整理します。

パターン1. 担当者の「人材像」と評価基準がない
「AIに詳しい人を育てる」とだけ決めて、何ができる状態を目指すのかが言葉になっていないパターンです。担当者は何を学べばよいか分からず、周囲は成果をどう評価してよいか分かりません。
IPAの「DX動向2026」では、DXに取り組む企業のうち、人材像を「設定し、社内に周知している」企業は16.2%で、2024年度の20.4%から約4ポイント低下しました。DX人材の評価基準についても、「基準はない」と回答した企業が76.1%です。
出典・参考:IPA「DX動向2026」第4章(2026年7月) 報告書(PDF)
最初に、担当する業務の範囲と、できるようになってほしいことを書き出しましょう。
パターン2. 学ぶ時間と予算が確保されない
担当者を決めたものの、通常業務が減らず、学ぶ時間が取れないパターンです。計算例で学習時間を100時間と置いたように、内製化には担当者の時間が実費としてかかります。
同じ調査で、人材育成の予算を「大幅に増やした」「やや増やした」企業の合計は2025年度で25.6%、「変わらない」が約半数でした。また、必要なスキルを「把握できていない」と回答した企業は52.8%です。
出典・参考:IPA「DX動向2026」第4章(2026年7月) DX動向2026(報告書ページ)
学ぶ内容を決め、業務時間内に学習時間を割り当て、必要なら助成金の活用を検討しましょう。
パターン3. データが整っていない
AIに参照させたい社内データが散らばっていて使えないパターンです。担当者がAIを作れるようになっても、渡せるデータがなければ精度が出ません。
前述のとおり、AIの学習に使うデータを整備して活用している企業は7.0%です。総務省の「令和8年版 情報通信白書」でも、生成AIの活用について「組織的な取組はない」と回答した企業が27.0%ありました。
出典・参考:IPA「DX動向2026」(2026年7月) DX動向2026(報告書ページ)/総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026年7月) 組織的な取組状況
データ整備はAI開発と別の作業です。内製化の計画に、どのデータをどこに集めるかの工程を最初から入れておきましょう。
パターン4. モデル差し替え・リスク管理の手順がない
モデルの廃止告知が届いた時点で止まるパターンです。誰が通知を受け取り、誰が差し替えて、誰が再評価するかが決まっていません。
論点1で確認した廃止通知の期間(2026年10月時点でAnthropicは60日以上前、OpenAIは一般提供モデルで6か月以上前)の内に対応する手順が必要です。
リスク管理も同様です。IPAの「DX動向2026」によると、「AIや生成AI独自のリスクマネジメントを実施している」企業は14.2%にとどまり、IPAはハルシネーションや情報漏洩への対策は道半ばだと指摘しています。
出典・参考:IPA「DX動向2026」第3章(2026年7月) 報告書(PDF)/Anthropic「Model deprecations」 Model deprecations/OpenAI「Deprecations」 Deprecations
パターン5. 外注の成果物が引き継げる形になっていない
外注で作った仕組みを内製に切り替えようとしたら、プロンプト、設定、評価データが納品物に含まれておらず、社内で直せないパターンです。併用を目指す企業で起きやすい失敗です。
どの指示文で、どのデータを参照させ、どの評価データで精度を測ったかが分からなければ、社内で調整のしようがありません。
経済産業省の契約チェックリストが求める「データの利用範囲」「AI生成物の利用条件」の検討と同じ発想で、納品物の範囲と権利を契約で決めておきましょう。プロンプト・設定・評価データ・手順書の4点が納品物に入っているかで、後から内製に切り替えられるかが決まります。
AI内製化の進め方5ステップ|外注しながら引き継ぐ
5つのパターンを避けながら内製化を進める手順を5ステップで示します。最初の1本は外注し、運用と改修を順に引き継ぐ進め方です。

ステップ1. 対象業務とスキルを先に把握する
最初に、AIで効率化できそうな業務を洗い出し、1本目の対象を決めます。あわせて、その業務をAI化するために社内に足りないスキルを書き出します。
IPAの「DX動向2026」によると、AIの影響を踏まえた人材育成・確保の取り組みのうち、「効率化・自動化が見込まれる既存業務の把握」に着手している企業は19.0%で、他の項目は1割に満たない状況です。この業務把握に着手している割合は、DXの効果が高い企業で37.6%、低い企業で23.8%と差がありました。
出典・参考:IPA「DX動向2026」第4章(2026年7月) 報告書(PDF)
対象業務が決まったら、精度目標と評価データを含む要件メモを作ります。作り方はAIプロジェクトの要件定義の記事を参照してください。この要件メモは、外注にも内製にもそのまま使えます。
ステップ2. 育てる人材像を決める
次に、誰を、何ができる人に育てるかを決めます。「デジタルスキル標準」では、全社員向けのDXリテラシー標準と、推進担当者向けのDX推進スキル標準が分かれています。全社員にはリテラシー、担当者には推進スキルの類型を当てはめると整理しやすくなります。
デジタルスキル標準は、ver.1.1(2023年8月)とver.1.2(2024年7月)で生成AI関連の内容が補記され、ver.2.0(2026年4月)ではデータマネジメントの人材類型が新設されました。必要なスキルの定義が1年単位で更新されている点を踏まえ、人材像も定期的に見直しましょう。
出典・参考:経済産業省・IPA「デジタルスキル標準 ver.2.0」(2026年4月) IPAの掲載ページ
研修を使う場合は、全社員向けのリテラシー研修と、担当者向けの開発研修を分けて選びます。目的別の研修の選び方はAI導入支援会社の選び方の記事で解説しています。
ステップ3. 最初の1本は外注し、引き継ぎを契約に入れる
最初の1本は外注で確実に動かし、その過程を担当者が見る形が現実的です。担当者が学びながら作ると、完成までに時間がかかり、途中で止まりやすいためです。
このとき、納品物にプロンプト、設定、評価データ、運用手順書を含めることを契約に書きます。パターン5で確認したとおり、ここが抜けると内製への切り替えができません。
契約形態(請負・準委任)の違いと選び方はシステム開発の外注と内製の比較記事で解説しています。引き継ぎを前提にするなら、開発の進め方に自社が関与しやすい形を選びましょう。
ステップ4. 運用と改修を担当者に移す
1本目が動き始めたら、運用、改修の順で担当者に移します。いきなり開発を任せるのではなく、まず日々の運用(結果の確認、簡単なプロンプト調整)から始め、次に改修(参照データの追加、判定条件の変更)へ進める順番です。
株式会社Last Sceneでは、開発会社が作って納品する形ではなく、開発しながら週次で担当者が手を動かし、運用から改修へと段階的に引き継ぐ型で支援しています。引き継ぎが終わった後は、伴走を続けるか自社だけで進めるかをクライアントが選びます。
経済産業省の「DX支援ガイダンス」も、人材・情報・資金が不足する企業が独力でDXを推進することは難しく、伴走役となる支援機関による支援が有効だと整理しています。
出典・参考:経済産業省「DX支援ガイダンス」 DX支援ガイダンスの掲載ページ
引き継ぎは「説明を聞く」より「担当者が自分で1回直す」を区切りにすると進みます!
ステップ5. モデル差し替えと評価を定例にする
最後に、モデルの差し替えと精度の再評価を定例の業務にします。ベンダーの廃止告知を受け取る窓口(メールアドレスや担当者)を決め、告知が来たら同じ評価データで新しいモデルを測り、差し替える手順を文書にしておきます。
あわせて、年に1回は担当者のスキルと人材像を棚卸しします。スキル標準の更新と同じく、必要なスキルは変わり続けるためです。
ここまで整えば、2年目以降は社内で直し続けられる体制になります。
AI内製化に関するよくある質問
エンジニアがいない会社でもAIの内製化はできますか?
対象業務を絞り、最初の1本を外注して引き継ぐ形なら、エンジニアが社内にいなくても運用と改修を自社で回す体制は作れます。プロンプトや参照データの調整は、プログラミングより業務知識が要る作業です。
ただし、担当者が稼働の2〜3割を継続して使える状態が条件です。担当者を割けない場合は、外注と保守契約で維持する形を選びましょう。
内製化支援と研修はどちらを先に受けるべきですか?
対象業務が決まっていて、作りながら学びたいなら内製化支援が先です。対象業務が決まっておらず、まず社員全体のリテラシーを上げたいなら研修が先です。
両者の違いと費用の目安はAI導入支援会社の選び方の記事で解説しています。
外注したAIを途中から内製に切り替えられますか?
納品物にプロンプト、設定、評価データ、手順書が含まれていれば切り替えられます。含まれていない場合は、開発会社に追加で提供を依頼するか、評価データを自社で作り直す必要があります。
これから外注する場合は、契約の段階で納品物の範囲と権利を決めておきましょう。契約形態の考え方はシステム開発の外注と内製の比較記事を参照してください。
まとめ|AI開発は「2年目以降に誰が直すか」で内製・外注・併用を決める
AI開発の内製と外注は、モデルの入れ替わり、プロンプトの保守、データの扱い、評価の継続、人材の5つの論点で判断します。公開済みモデルの廃止通知は、2026年10月時点でAnthropicが60日以上前、OpenAIが一般提供モデルで6か月以上前で、この期間内に差し替えと再評価をする人が必要です。
判断の基準は、業務が半年以内に変わるか、社内データを扱うか、担当者を稼働2〜3割で割けるか、期限と初回の品質、2年目以降に誰が直すかの5つの問いです。IPAの調査では専門人材の不足を課題とする企業が50.1%で、人材の確保が内製化の最初の壁です。
本記事の概算では、担当者1人・稼働30%の内製が初年度約290万円、外注が約456万円+改修費、併用が約500万円で、3年合計では改修の回数が多いほど内製・併用が有利になります。これらは仮定に基づく独自の概算で、確定見積もりではありません。
初回の開発費ではなく、2年目以降に直し続ける体制から逆算して内製・外注・併用を選びましょう!
内製か外注かを決める前のチェックリスト
- 対象業務のルールが過去1年で何回変わったかを数え、改修の頻度を見積もった
- AIに渡す社内データ・個人情報の範囲と、利用目的の確認方法を決めた
- 担当者を1人以上、稼働の2〜3割で割けるかを確認し、育てる人材像を書き出した
- 体制別の年間総費用を自社の数字で計算し、3年合計で比べた
- 外注する場合、プロンプト・設定・評価データ・手順書を納品物に含めることを契約に入れた
株式会社Last Sceneは、AIエージェントの要件整理から開発、運用の引き継ぎまでを伴走する形で支援しています。開発しながら担当者に運用と改修を移していく進め方のため、内製化を見据えた相談にも対応できます。
内製するか外注するかが決まっていない段階でも、対象業務の洗い出しや体制の整理からご相談いただけます。
費用の目安を知りたい段階でも構いません。自社の業務と体制に合わせた概算をお伝えします。
業務に合わせたAIエージェントを開発
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- AIを使いたいが、どの業務から手をつければいいか分からない
- PoC(試作・検証)で止まり、現場で使われるところまで進まない
- 社内にAIに詳しいエンジニアがいない
八木(Last Scene)週1回の定例で動くものをお見せしながら、御社だけで運用できる状態まで伴走します。
「この作業は自動化できる?」の一問からご相談ください。



