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RAG構築の費用と手順|社内ナレッジ検索AIは文書整備で費用が決まる

202610/30
AI開発
2026年10月30日
RAG構築の費用と手順|社内ナレッジ検索AIは文書整備で費用が決まる
目次

社内の規程やマニュアルをAIに答えさせたい。けれども、いくらかかるのか、何から準備すればよいのかが見えない。こうした悩みを持つ情報システム部門やDX推進の担当者は少なくありません。

RAG(検索拡張生成)は、社内文書を検索し、その内容をもとにAIが回答を作る仕組みです。構築を外注する場合、費用は検索や生成の利用料よりも、文書の整備や閲覧権限の設計といった作業の量に左右されます。

この記事では、RAG構築を開発会社に依頼する発注側の担当者に向けて、初期費用と月額費用の目安、月額の利用料の計算例、発注者が進める手順を解説します。文書整備・権限・更新運用・評価の実務もまとめるので、見積もりの確認や社内の準備にお役立てください。

RAG構築の費用は、検索や生成の利用料よりも、文書整備と権限設計の作業量で決まります!

まず、RAG構築にかかる費用を一覧で示します。

費用項目

目安(概算)

何で変わるか

補足

初期開発費

200万〜800万円(2〜5か月)

文書量、閲覧権限の分け方、連携先の数

人月単価80万円を仮定した概算

PoC(別契約の場合)

50万〜300万円(1〜2か月)

対象にする文書と質問の範囲

評価まで含むかを確認する

月額の利用料

本記事の計算例では約2.1万円

質問数、検索基盤のプラン

検索基盤+埋め込み+回答生成の合計

保守・改善

月額10万〜50万円

文書更新の頻度、評価の回数

更新の反映と再評価を含むかを確認する

初期開発費・PoC・保守改善の金額は、人月単価80万円を仮定して算出した本記事独自の概算で、確定見積もりではありません。RAG構築の費用をまとめた公的な統計は見当たらないため、検討の出発点としてお使いください。

初期開発費とPoCの金額には、API利用料・ツール利用料・サーバー費・保守費・消費税は含みません。

月額の利用料は、2026年10月6日に確認した公式の単価と、仮定の利用量を掛け合わせた計算例です。利用量やプラン、為替によって変わるため、自社の数字に置き換えて確認しましょう。

RAG構築とは|社内ナレッジ検索AIの仕組みと向く業務

まず、社内の情報を探す用途でAIがどの程度使われているのかを、公的な調査で確認します。

総務省の「令和8年版 情報通信白書」によると、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した日本企業は86.4%でした。活用している業務は「議事録・メール作成補助」が約7割と最も高く、次に「営業・販売」が約6割、「社内ヘルプデスク」が約5割と続きます。

出典・参考:総務省「令和8年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状 生成AIの業務利用状況

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2026」では、利用用途として「情報検索・収集・分析・レポーティング」を挙げた企業が77.0%にのぼります。一方、利用の形態は「個人で業務利用している」が63.3%と最も高く、「部署の業務プロセスに組み込まれている」は11.9%、「全社的なサービスに組み込まれている」は18.6%にとどまります。

出典・参考:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026」(2026年7月) DX動向2026(報告書ページ)/プレスリリース

2つの調査は対象も設問も異なりますが、情報を探す用途でAIを使う企業は多く、組織の仕組みにできている企業はまだ少ない、という傾向が読み取れます。

RAG(検索拡張生成)の仕組み|検索してから回答を作る

RAGは、AIが回答を作る前に、学習に使われたデータ以外の信頼できる知識ベースを参照させる方法です。AWSは、大規模な言語モデルの出力を最適化するプロセスと説明しています。

RAGが質問から回答を作るまでの4つの流れ

流れは4段階です。利用者が質問する、質問に関係する社内文書を検索する、見つかった文書の抜粋をAIに渡す、AIがその内容をもとに回答を作る、の順に進みます。

出典・参考:Amazon Web Services 「検索拡張生成 (RAG) とは」

埋め込みは、文章を、意味の近さを比べられる数値の並びに変換する処理です。チャンクは、長い文書を検索しやすい大きさに分割したまとまりを指します。

追加学習(ファインチューニング)との違い

追加学習は、AIのモデルそのものに自社のデータを学習させる方法です。RAGはモデルを変えず、回答のたびに社内文書を検索して参照させます。

RAGでは、参照する文書を差し替えれば回答の内容も更新できます。規程やマニュアルのように改訂が続く文書を扱うなら、まずRAGで足りるかを検討しましょう。

RAG構築が向く業務・向かない業務

RAGが向くのは、答えが社内文書に書かれている質問です。向かないのは、文書に答えがない質問と、数字の集計が中心の質問です。

RAG構築が向く社内文書の4つの例

区分

業務・質問の例

理由

向く

社内規程、業務マニュアル、過去の対応履歴、製品仕様についての質問

答えが文書にあり、根拠を示せる

向かない

個別の事情を踏まえた判断、前例のない相談

文書に答えがなく、検索しても根拠が見つからない

向かない

売上の合計や件数など、集計・計算が中心の質問

検索ではなく、データの集計で答える内容である

RAG構築を検討するときは、まず「その質問の答えは、どの文書に書いてあるか」を確認しましょう。

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文書が少なければRAGを構築しない選択肢もある

対象の文書が少ない場合は、検索の仕組みを作らず、文書をそのままAIに読ませる方法もあります。

Anthropicは2024年9月の記事で、ナレッジベースが20万トークン(資料にして約500ページ)より小さければ、全体をAIへの指示に含めればよく、RAGのような手法は不要だと説明しています。

出典・参考:Anthropic 「Introducing Contextual Retrieval」(2024年9月19日)

2024年時点の見解で、英語の資料を前提にした目安のため、日本語の文書のページ数にそのまま当てはめることはできません。

文書が少なく、全員が同じ文書を見てよい場合は、文書の読み込みに対応した既製のAIサービスで足りることもあります。文書量と閲覧権限の複雑さを整理してから、構築するかどうかを判断しましょう。

RAG構築の費用相場|初期費用の目安と内訳

ここからは、RAG構築を外注する場合の初期費用を、目安・内訳・増減する条件の順に見ていきます。

初期費用の目安は200万〜800万円

社内ナレッジ検索・問い合わせ応答のためのRAG構築は、初期開発費が200万〜800万円、期間が2〜5か月が目安です。工数にすると約2.5〜10人月にあたります。

この金額は、人月単価80万円を仮定して算出した本記事独自の概算で、確定見積もりではありません。設計・実装・連携・評価を含む想定で、API利用料・ツール利用料・サーバー費・保守費・消費税は含みません。

前提はAIエージェント開発の費用相場の記事と同じです。RAG構築の費用をまとめた公的な統計は見当たらず、開発会社が公開している目安にも幅があります。

検索と回答だけでよいのか、申請の登録や担当部署への引き継ぎまで行うのかによって、必要な機能と費用は変わります。800万円は上限ではなく、本記事の想定範囲における目安です。

費用の一部に補助金を使えるかどうかは、制度の要件や申請する枠によって変わります。検討する場合は、デジタル化・AI導入補助金2026の記事で対象と手続きを確認しましょう。

初期費用の内訳|文書整備・権限設計・検索・回答生成・評価

初期費用は、次の工程の作業量を積み上げたものです。工程ごとに、発注者と開発会社のどちらが主に担当するかも整理します。

工程

主な作業内容

主に担当する側

要件整理

対象業務と利用者を決める、実際に来ている質問を集める

発注者(開発会社が整理を支援)

文書整備

旧版と重複の整理、スキャンした文書の文字起こし

発注者が正の版を決め、開発会社が加工する

権限設計

文書と閲覧グループの対応づけ、社内の認証との連携

発注者が区分を定義し、開発会社が実装する

検索の実装

文書の分割、埋め込み、検索基盤の構築、検索結果の調整

開発会社

回答生成

AIへの指示文の設計、根拠にした文書の表示

開発会社

評価

評価用の質問と正解の用意、検索結果と回答の確認

発注者が質問と正解を用意し、開発会社が測定する

画面・連携

質問画面の作成、社内チャットや社内ポータルとの接続

開発会社

工程ごとの費用の割合は、文書の状態によって大きく変わります。根拠となる統計もないため、本記事では割合を示していません。

RAG構築の初期費用を構成する6つの工程

文書が古い、重複している、口頭でしか共有されていない、という状態のままでは、AIも正しく答えられません。

見積もりでは、開発費とは別に「文書の整備・構造化」の工数が含まれているかを確認してください。

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費用が上がる4つの条件

同じ「社内ナレッジ検索」でも、次の4つの条件に当てはまるほど作業量が増え、費用は上がります。

RAG構築の費用が上がる4つの条件
  1. 文書量が多く、スキャンしたPDFや表・図が中心の文書が含まれる
  2. 部署や役職ごとに、閲覧できる文書を細かく分ける
  3. 文書の置き場所が複数あり、連携する先が多い
  4. 文書の追加や改訂を、自動で検索対象に反映する

Microsoftは、企業のコンテンツがSharePoint、データベース、BLOBストレージなどの複数の場所にまたがる点を、RAGの課題として挙げています。置き場所が増えるほど、接続と権限の確認の作業が増えます。

出典・参考:Microsoft Learn「RAG および生成 AI - Azure AI Search」(2026年8月4日更新) 該当ページ

PoCから始める場合の費用と期間

本開発の前にPoC(概念実証)を別契約で行う場合の目安は、50万〜300万円、期間は1〜2か月程度です。この金額も、人月単価80万円を仮定した本記事独自の概算で、確定見積もりではありません。

PoCでは、対象の文書と質問を絞り、検索で正しい文書が見つかるか、回答が業務で使える水準かを確かめます。

見積もりでは、PoCの金額に評価の作業が含まれるか、PoCで作ったものを本開発に引き継げるかを確認しましょう。

見積書で確認する項目

見積書を受け取ったら、金額の合計より先に、次の5つの項目で作業範囲を確認します。

  • 文書の整備・構造化の工数が含まれているか
  • 「お客様側でご用意ください」とされている作業はどこまでか
  • 閲覧権限をどの方式で実装するか、既存の権限グループを使えるか
  • 評価を何回行い、何問の質問で確認するか
  • 月額費用の内訳と、検索基盤やAIの利用契約をどちらの名義で結ぶか

「お客様側でご用意ください」と書かれた範囲が、そのまま発注者の社内工数になります!

契約の段階では、入力したデータの扱いも確認します。デジタル庁が政府機関向けに定めたガイドラインは、契約時のチェック項目として、入力データに関する取り決め(学習の有無、データの保存方法など)を挙げています。

出典・参考:デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」2.0版(2026年6月12日公表) ガイドラインの掲載ページ

開発会社そのものの比べ方は、AI開発に強い企業の選び方の記事もあわせてご覧ください。

RAGの月額費用|利用料の計算方法【2026年10月時点】

RAGは、構築したあとも毎月の費用がかかります。この章の単価は2026年10月6日に確認した時点のもので、料金は改定されるため、契約前に公式の料金ページで最新を確認しましょう。

月額費用は利用料・検索基盤・保守改善の3つ

月額費用は、AIの利用料、検索基盤の利用料、保守・改善の3つに分けて考えます。

項目

内容

何で増えるか

AIの利用料

埋め込みと回答生成にかかる従量課金

質問数、AIに渡す文書の量、選ぶモデル

検索基盤の利用料

文書を保管し、検索するサービスの料金

文書の容量、選ぶプラン

保守・改善

文書更新の反映、評価のやり直し、指摘への対応

文書更新の頻度、評価の回数

本記事では、AIの利用料と検索基盤の利用料を合わせて「月額の利用料」と呼びます。

埋め込み・検索基盤・回答生成の公式単価

計算に使う単価を、各社の公式情報から整理します。確認日は2026年10月6日で、通貨と課金単位は表のとおりです。トークンは、AIが文章を処理するときの単位を指します。

項目

単価

通貨・課金単位

回答生成:Claude Haiku 4.5

入力1ドル/出力5ドル

米ドル・100万トークンあたり

回答生成:Claude Sonnet 5

入力2ドル/出力10ドル

米ドル・100万トークンあたり

埋め込み:text-embedding-3-small(OpenAI)

0.02ドル

米ドル・100万トークンあたり

埋め込み:Gemini Embedding 2(Google、有料枠・テキスト入力)

0.20ドル

米ドル・100万トークンあたり

検索基盤:Azure AI Search Basic(東日本リージョン)

20.9541円

日本円・検索ユニット1つ、1時間あたり

検索基盤:Azure AI Search Standard S1(東日本リージョン)

69.9522円

日本円・検索ユニット1つ、1時間あたり

出典・参考:Anthropic「Pricing」 Claude APIの料金/OpenAI「API Pricing」 OpenAI APIの料金/Google「Gemini Developer API pricing」 Gemini APIの料金/Microsoft「Azure AI Search の価格」および Azure Retail Prices API Azure AI Search の価格(いずれも2026年10月6日確認)

Azure AI Searchの時間単価は、Microsoftの料金取得用API(Azure Retail Prices API)が返した値です。特定の製品を勧める意図はなく、時間単価が公開されている例として使っています。

埋め込みの単価は提供会社によって10倍の差がありますが、次の計算例のとおり、月額全体に占める金額はわずかです。

計算例|文書量と質問数から月額の利用料を見積もる

月額の利用料は、次の式で求めます。

月額の利用料 = 検索基盤の月額 + 埋め込みの利用料 + 回答生成の利用料

RAGの月額利用料を求める計算式

計算例では、利用量を次のように仮定します。表の値はすべて計算用の仮定で、実際の数字に置き換えて使ってください。

項目

仮定の値

補足

文書量

2,000ファイル×平均5,000文字=1,000万文字

仮定

文字とトークンの換算

1文字=1トークン(1,000万トークン)

仮定。モデルや文章で変わる

文書の更新

毎月1割(100万トークン)を埋め込み直す

仮定

質問数

利用者100人×1日1.5件×20営業日=月3,000件

仮定

質問1件あたりの量

入力4,000トークン、出力500トークン

仮定。入力は指示文・質問・文書の抜粋の合計

為替と時間

1ドル=150円、1か月=730時間

仮定

まず検索基盤です。Azure AI SearchのBasicを1ユニット使うと、20.9541円×730時間=月1万5,296円になります。

次に埋め込みです。初回は1,000万トークン×0.02ドル(text-embedding-3-small、100万トークンあたり)=0.20ドルで、30円です。毎月の更新分は100万トークン×0.02ドル=0.02ドルで、3円になります。

最後に回答生成です。入力は3,000件×4,000トークン=1,200万トークン、出力は3,000件×500トークン=150万トークンです。

100万トークンを1単位にすると、入力は12、出力は1.5です。Claude Sonnet 5の場合は、12×2ドル+1.5×10ドル=39ドルで、月5,850円になります。

Claude Haiku 4.5の場合は、12×1ドル+1.5×5ドル=19.5ドルで、月2,925円です。

項目

Claude Sonnet 5の場合

Claude Haiku 4.5の場合

検索基盤(Azure AI Search Basic)

1万5,296円

1万5,296円

埋め込み(毎月の更新分)

3円

3円

回答生成

5,850円

2,925円

月額の利用料(合計)

2万1,149円

1万8,224円

この条件では、月額の利用料は約2.1万円です。

この計算は、公式の単価と仮定の利用量による本記事独自の概算で、確定見積もりではありません。消費税、為替の変動、検索結果の並べ替えや文字起こしなどの追加機能、通信にかかる費用、保守費は含みません。

1文字=1トークンの仮定は、モデルや文章によって実際の数とずれます。正確に見積もるときは、開発会社に実際の文書でトークン数を計測してもらいましょう。

自社の文書量と質問数を式に入れ替えれば、月額の利用料の桁は発注前に確認できます。

業務に合わせたAIエージェントを開発

その業務、AIで自動化できるか無料で診断します

  • AIを使いたいが、どの業務から手をつければいいか分からない
  • PoC(試作・検証)で止まり、現場で使われるところまで進まない
  • 社内にAIに詳しいエンジニアがいない
八木(Last Scene)

週1回の定例で動くものをお見せしながら、御社だけで運用できる状態まで伴走します。
「この作業は自動化できる?」の一問からご相談ください。

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利用料より保守・改善の費用が大きくなる理由

計算例の利用料は月2万円前後でした。一方、保守・改善の目安は月額10万〜50万円(人月単価80万円を仮定した本記事独自の概算)で、月額費用の大半を占めます。

保守・改善の中身は、文書の追加や改訂の反映、評価のやり直し、利用者から寄せられた「答えが違う」という指摘への対応です。いずれも人が確認する作業で、質問数が少なくても発生します。

質問数が10倍の月3万件になると、Claude Sonnet 5の回答生成は5万8,500円です。文書量が10倍になっても初回の埋め込みは300円ですが、検索基盤は容量の大きいプランが必要になります。

Azure AI Searchの料金ページでは、ストレージ容量はBasicが15GB、Standard S1が160GBです。Standard S1を1ユニット使うと、69.9522円×730時間=月5万1,065円になります。

出典・参考:Microsoft「Azure AI Search の価格」および Azure Retail Prices API(2026年10月6日確認) Azure AI Search の価格

RAG構築の手順|発注者が進める6ステップ

RAG構築の実装は開発会社が行いますが、発注者にしかできない作業があります。ここでは、発注者の側から見た手順を6つのステップで説明します。

手順の全体像|6ステップと期間の目安

全体の流れは次のとおりです。

RAG構築を進める6つのステップ
  1. 対象業務と質問例を決める
  2. 文書を棚卸しする
  3. 文書を整備する
  4. 閲覧権限を設計する
  5. PoCで評価する
  6. 本番化して更新運用を始める

期間の目安は、PoCが1〜2か月程度、初期開発が2〜5か月です。いずれも本記事独自の概算で、文書の状態と対象範囲によって変わります。

ステップ1〜4は、開発会社に依頼する前から社内で進められます。ここが済んでいるほど、見積もりの前提がそろいます。

ステップ1〜2. 対象業務と質問例を決め、文書を棚卸しする

最初に、どの業務の、誰からの質問に答えさせるのかを決めます。「社内の文書を何でも検索できるようにする」という決め方では、対象が広がりすぎて見積もりが出せません。

質問例は、想像で作らず、実際に来ている質問を集めます。総務や情報システム部門への問い合わせ履歴、社内チャットの質問、担当者が繰り返し答えている内容が材料になります。

次に、その質問の答えが書かれている文書を棚卸しします。一覧にする項目は、文書の置き場所、ファイル形式、最新の版、内容に責任を持つ部署の4つです。

ステップ3〜4. 文書整備と権限設計を済ませてからPoCに入る

文書整備では、旧版と重複を外し、どれを正の文書とするかを決めます。この判断は内容を知っている部署にしかできないため、発注者の作業です。

権限設計では、文書ごとに「誰が見てよいか」を決めます。人事評価や給与、取引先との契約のように、見られる人が限られる文書を先に洗い出しましょう。

この2つをPoCのあとに回すと、PoCでは良い結果が出たのに、本番の文書では答えられないという事態が起こります。

ステップ5〜6. PoCで評価し、本番化して対象を広げる

PoCは、1つの部署の1種類の文書から始めます。集めた質問例を使い、正しい文書が検索されるか、回答が業務で使えるかを確かめます。

どの水準を合格とするかは、PoCを始める前に決めておきます。精度目標の決め方、評価データの用意、検収条件の書き方は、AIプロジェクトの要件定義の記事で詳しく説明しています。

本番化のあとは、対象の文書と部署を段階的に広げます。広げるたびに、文書の棚卸しと権限の確認、評価をやり直す点に注意しましょう。

発注者と開発会社の役割分担

6つのステップを、発注者と開発会社の作業に分けると次のようになります。

作業

発注者

開発会社

対象業務と質問例

業務を決め、実際の質問を集める

質問を分類する

文書の棚卸し

置き場所・形式・版・責任部署を一覧にする

形式ごとに取り込めるかを判定する

文書整備

正の版を決め、旧版と重複を外す

文字起こし、分割、取り込み

権限設計

文書と閲覧できる人の区分を定義する

検索基盤への実装と動作確認

評価

質問と正解を用意し、合否を判断する

測定と、原因の切り分け・調整

更新運用

担当者と頻度を決め、改訂を連絡する

反映の仕組みを用意する

発注者の列にある作業を開発会社に任せることもできますが、その分は見積もりに加わります。社内で担う範囲を先に決めてから、見積もりを依頼しましょう。

文書整備・権限・更新運用・評価の実務|費用と精度を左右する4点

RAGの費用と回答の精度は、文書整備・権限管理・更新運用・評価の4点で決まります。権限に関わる個人情報・機密情報の扱いとあわせて、発注者が決めることを順に説明します。

RAGの費用と精度を左右する4つの実務

文書整備|旧版と重複を先に片づける

RAGは、検索で見つかった文書をもとに回答します。旧版の規程が残っていれば、古い内容がそのまま回答に使われます。

旧版と重複を外し、どれを正の文書とするかを決めるのは発注者です。

文書の形式も重要です。Microsoftは、大きな文書を小さなチャンクに分割することで、モデルが一度に受け取れる入力の上限に収められると説明しています。

出典・参考:Microsoft Learn「チャンク ドキュメント - Azure AI Search」(2026年6月8日更新) 該当ページ

文書は分割して検索されるため、見出しのない長文や、画像として貼られた表は、分割したあとに意味が途切れやすくなります。スキャンしただけの文書は、文字として読める状態にしておきましょう。

文書整備は、RAGの精度に直結する、発注者が主導する作業です。

権限管理|閲覧できない文書を回答に使わせない

RAGでは、質問した人が本来見られない文書が、回答の材料に使われないようにする必要があります。人事や経営の文書を対象に含める場合は、最初に検討する点です。

仕組みは検索基盤の機能で実現できます。たとえばAzure AI Searchは文書単位のアクセス制御に対応しており、グループや利用者のIDをもとに、質問した人が読み取り権限を持つ文書だけを取り出すよう検索結果を絞り込めます。

出典・参考:Microsoft Learn「ドキュメント レベルのアクセス制御 - Azure AI Search」(2026年8月8日更新) 該当ページ/「セキュリティ フィルター パターン - Azure AI Search」(2026年8月21日更新) 該当ページ

機能があっても、どの文書を誰が見てよいかの定義は発注者が出します。すでに使っている権限グループをそのまま使えるか、異動や退職をいつ反映するかも、あわせて決めましょう。

個人情報・機密情報|検索対象に入れる範囲を決める

検索で取り出された文書の抜粋は、回答を作るときにAIへ送られます。検索対象に入れた文書は、AIへの入力に含まれる可能性があると考えてください。

個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、個人情報を含む内容を生成AIサービスに入力する場合は、利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。個人データについては、提供事業者が機械学習に利用しないことなどの確認も挙げています。

出典・参考:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日) 注意喚起の掲載ページ

最初の対象は、個人情報や機密情報を含まない文書に絞ると進めやすくなります。含める場合は、利用目的、AIの提供会社でのデータの扱い、閲覧権限の3点を先に確認しましょう。

更新運用|文書の追加・改訂を誰が反映するか

規程やマニュアルの改訂が検索対象に反映されなければ、RAGは古い内容で答え続けます。

AWSは、最新の情報を取得できる状態を保つには、文書を更新し、あわせて文書の埋め込みも更新する必要があると説明しています。方法は、自動でその都度反映する処理と、定期的にまとめて反映する処理の2つです。

出典・参考:Amazon Web Services 「検索拡張生成 (RAG) とは」

発注者が決めるのは、反映の担当者、反映の頻度、廃止した文書を検索対象から外す手順の3つです。

自動で反映する仕組みは初期費用を、手作業での反映は保守・改善の費用を押し上げます。文書が変わる頻度を確認し、どちらが合うかを開発会社と相談してください。

評価|検索と回答を分けて確認する

RAGの評価では、「検索が正しいか」と「回答が正しいか」を分けて確認します。回答だけを見ていると、どこを直せばよいのかが分かりません。

デジタル庁が2024年6月に公開した「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」は、RAGを用いる場合の評価の観点を、次の3段階に分けて例示しています。政府の情報システム向けの参考資料で、民間企業の義務ではありませんが、評価の型として活用できます。

段階

観点

確認する内容

検索

再現率

想定していた関連文章を抽出できているか

検索

適合性

抽出した関連文章に不適切なものが含まれていないか

回答

関連文章との対応

回答に含まれる固有名詞や内容が、関連文章の中にあるか。複数の文章をまとめた場合、論理のつながりは自然か

最終的な生成物

求める品質

十分に読みやすいか、出力形式が意図どおりか

同ガイドブックは、複数人がそれぞれ独立に評価した内容を総合することで、主観による偏りを抑えられるとも説明しています。

RAGの評価で確認する4つの観点

出典・参考:デジタル庁「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」(2024年6月10日) ガイドブックの掲載ページ

検索の段階で正しい文書が見つかっていなければ、原因は文書整備や分割のしかたにあります。文書は見つかっているのに回答が誤っていれば、AIへの指示やモデルの選び方を見直します。

合格ラインの決め方と検収条件は、AIプロジェクトの要件定義の記事を参考に、PoCの前に開発会社と合意しておきましょう。

RAG構築に関するよくある質問

文書が整理されていなくてもRAG構築を始められますか?

始められます。ただし、全社の文書を一度に対象にせず、1つの業務で使う文書に範囲を絞ってください。

絞った範囲について、置き場所と最新の版を一覧にするところから始めましょう。

RAGを構築すれば誤った回答はなくなりますか?

なくなりません。検索で関係のない文書が選ばれる、文書そのものが古い、回答に文書にない内容が混ざる、といった原因で誤りは起こります。

対策は、回答と一緒に根拠の文書を表示し、利用者が元の文書を確認できるようにすることです。重要な判断に使う場合は、人が確認する手順を残しましょう。

RAG構築は外注せず自社だけでも進められますか?

文書が少なく、全員が同じ文書を見てよい場合は、文書の読み込みに対応した既製のAIサービスを使い、自社だけで始められます。

部署ごとの閲覧権限、複数の保管場所との連携、更新の自動化が必要になると、設計と実装の経験が求められます。文書の棚卸しと整備は自社で行い、権限設計と実装を外部に任せる分け方も選べます。

外部に頼む範囲の決め方は、AI導入支援会社の選び方の記事を参考にしてください。

まとめ|RAG構築の費用は文書整備と権限設計で決まる

RAG構築の初期費用は200万〜800万円(2〜5か月)、PoCを別契約で行う場合は50万〜300万円(1〜2か月)が目安です。いずれも人月単価80万円を仮定した本記事独自の概算で、確定見積もりではなく、API利用料・ツール利用料・サーバー費・保守費・消費税は含みません。

月額の利用料は、文書1,000万文字・月3,000件の質問という仮定の計算例で約2.1万円でした。保守・改善は月額10万〜50万円が目安で、月額費用の大半を占めます。

RAG構築は、開発会社を探す前に、対象の業務と文書を決めるところから始めましょう!

RAG構築を発注する前のチェックリスト

  1. 対象の業務を1つに絞り、実際に来ている質問を集めたか
  2. 答えが書かれた文書の置き場所と、正の版を一覧にしたか
  3. 文書ごとに、閲覧できる人の区分を決めたか
  4. 文書の追加・改訂・廃止を反映する担当者と頻度を決めたか
  5. 評価に使う質問と正解、確認する担当者を決めたか

株式会社Last Sceneでは、RAG構築を検討する段階の、対象業務の整理や文書の棚卸しからご相談いただけます。

どの文書を対象にするか、どこまでを社内で担うかが決まっていない段階でも構いません。現在の文書の状態をうかがいながら、進め方を一緒に整理します。

まずは費用の目安を知りたい、という段階でも、お気軽にご相談ください。

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  • AIを使いたいが、どの業務から手をつければいいか分からない
  • PoC(試作・検証)で止まり、現場で使われるところまで進まない
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